エッセイ

#02|めちゃくちゃになって、終わればいいのに 最悪を先回りして生きている

#02|めちゃくちゃになって、終わればいいのに 最悪を先回りして生きている
tamashino

『いっそのこと、めちゃくちゃになって終わればいいのに』

仕事に向かう電車の中で、こんな考えが心に浮かんだ。

この記事について

ひきこもりの兄をもつ妹が書くエッセイです。50代の子どもを80代の親が支える「8050問題」の片隅に、家族の問題で人知れず悩むきょうだいがいます。

老いた親と、兄が怒鳴り合う姿

昨年、実家に帰ったときに、兄と両親が怒鳴り合う姿を目にした。

初めてではない。何度も繰り返されている光景だ。

母いわく、数年前までは父と兄が掴み合いの喧嘩をしていたそうだから、暴力沙汰に発展していないだけ、マシなのかもしれない。

最近、父はめっきり老いた。もうすぐ80歳になる。

殴り合えば分が悪いと悟り、自分の体のためにも、世間体のためにも、兄との付き合い方を変えたのだろう。

心をずっと殴られつづけている

兄は喚く。

「◯◯は✕✕だ」
「△△を信じるな」

世の中の「真実」を知っているらしい兄は、自分が伝道師になり、家族を正しい方向に導こうとしているそうだ。

兄が語ることの真偽や善悪を決められるほど、私は賢くもないし、権力を持っているわけでもない。

特定の思想について、何が正しくて、何が間違っているのか、私にはわからない。

だから兄の言っていることが、正しいのかもしれない。

ただ、「家族のために」と言いながら、相手が疲れ果てて降参するまで自分の正しさを喚き散らすのは、イカれてるとしか思えない。

体に傷はつかなくても、心をずっと殴られているようなものだ。

自分の日常も蝕まれていく

そんな光景を目の当たりにしたあと、鬱屈とした気持ちのまま、私は自分の日常へ戻った。

そして仕事へ向かう満員電車の中。

つり革にもたれ、晴れた窓の外をぼんやり眺めていたときに、冒頭の考えが頭に浮かんできた。

『いっそのこと、めちゃくちゃになって終わればいいのに』

『事件にでもなって、ぜんぶ終わってしまえばいいのに』

寝不足だったせいもあるかもしれない。

心に芽生えた破滅願望に驚きつつも、自分も蝕まれていることを自覚した。

私は、本当に『めちゃくちゃになって終わればいい』と、思っているのだろうか。

破滅願望の正体は…

考えてわかったことは、破滅願望のように思えたヤケクソ心理は、自己防衛だということ。

ニュースになるような事件になり、兄のひきこもりが解決するどころか、家族が終わる。

こうした「最悪の結末」を、先回りして頭の中で何度も何度も再生しておくことで、予防線を張っているのだ。

こんな妄想をする。

ある日の仕事中に、見知らぬ番号から電話があって、留守番電話を聞いたら警察だった。

嫌な予感がし、詐欺であることに一縷の望みをかけながら、着信のあった番号ではなく、自分で調べた警察署の番号へかけ直す。

しかし聞かされたのは、兄と両親のこと―。

事件は夕方のニュースで報道され、YouTubeにも事件の動画が溢れかえる。

私は発熱と嘘をついて仕事を休み、現実感のないまま実家のある街へ向かう…。

こんな妄想を今からしておけば、仮に最悪が現実になったとしても、予習効果でダメージが少なくなるはず。

いうなれば、予行演習。

想像して、最悪の結末に少しずつ自分を慣らしておけば、どんな終わりを迎えても、きっと受け止められる。

後ろ向きなのか前向きなのかさっぱりわからないやり方だけど、私は最悪を想定しておくことで、未来の自分を守ろうとしていたのだ。

解決しないまま、終わる予感

私は、兄のひきこもりが「解決する」とは思っていない。

何をもって「解決」とするかは議論の余地があるけれど、仮に「もとの状態に戻る」ことが解決ならば、50歳を過ぎている兄が、ひきこもる前のように一般企業で働き、周囲の人たちと良好な人間関係を築いていくことは難しいだろう。

期待しないことも、自分を守る術だと思う。

「解決」という言葉で終われない問題が、世の中にはある。

私の家族の話は、解決しないまま終わるかもしれない。

わたしが知っている、兄のこと

大学卒業後、一般企業に就職。約10年前、退職を機に実家に戻り、両親と同居。その後、ひきこもり状態に。極端な思想に傾倒しやすく、同調しない相手への攻撃性が高い。

※ 本記事は実際の体験をもとにしていますが、身元の特定を防ぐため、一部の情報を省略・変更しています

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環しのぶ
環しのぶ
ひきこもりの兄をもつ妹が書くエッセイを執筆。50代の子どもを80代の親が支える「8050問題」の片隅に、家族の問題で人知れず悩むきょうだいがいます。
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