エッセイ

#03|家族=運命共同体は残酷 兄の人生まで背負えない

#03|家族=運命共同体は残酷 兄の人生まで背負う覚悟は持てない
tamashino

アニメが好きで、青春ものを観ることがある。

ラブコメは面白い。けれど感情移入しつつ盛大に楽しんだあと、こう思う。

『こんな青春、なかったな』

ひきこもりからの再生を描いた事例を見聞きしたときも、同じような気分になる。

物語としては感動できるけれど、自分の家族に照らし合わせて考えると、絶望感が生まれる。

この記事について

ひきこもりの兄をもつ妹が書くエッセイです。50代の子どもを80代の親が支える「8050問題」の片隅に、家族の問題で人知れず悩むきょうだいがいます。

ゴミ屋敷で退去勧告

兄はおそらく、病院で診断をうければ病名がつくだろう。

学生時代に一人暮らしをしていたとき、部屋がゴミ屋敷になり、退去させられたことがあった。

部屋中にゴミが散乱し、悪臭が漂うようになったため、近隣の入居者から管理会社へ苦情が入ったのだ。

しかし、本人に伝えても一向に改善されない。そのため保証人である親へ連絡が入った。

一度ではない。何度か繰り返した結果の退去勧告。引っ越した先でも同じことになっていた。

実家にいたときは母親が身の回りを整えていたため、兄の生活能力の無さは目立たなかったのかもしれない。

病院に連れていけますか?

実家に住んでいたとき、兄とは会話をした記憶がほとんどない。

だから正直、兄がどんな人なのか、わかっていない。

それもあってか、この話を親から聞いたとき、自分事というより知人の噂話を聞いたような感覚だった。

「え、やば…」

そんな感想しか出てこなかった。

ただ、見聞きした断片的なエピソードを繋ぎ合わせていくと、兄は何らかの病名がつく特性を持っていると思う。

しかし、兄を病院に連れていくことは難しい。

自分は賢く、周囲がバカだと思っている体格の良い大人の男を、どう説得して病院に連れていくのか。

あるいは、何らかの方法で騙して診察を受けさせたとして、嘘がバレたときの報復を誰が受けるのか。

診察されても薬を渡されるだけのことで、問題が解決するわけでもないだろう。

兄を「どうにかしよう」とすることは、自分の人生に兄を深く関わらせることだ。

家族を自分の運命共同体として受け入れることだ。

それが嫌で、実家を出たのに。

「家族=運命共同体」は残酷

私が18歳まで一緒にいた家族は、決して安全な居場所だと思えなかった。

夫婦仲が悪く、罵り合う声を聞きたくなくて、自室で耳をふさいでいたあの頃。

きょうだいで不安な気持ちを分かち合い、支え合うことができていたら、今とは違う未来だったのだろうか?

今となってはもう、後の祭りだ。

そもそも、そんな関係を築けるような家族ではなかったのだから。

ひきこもりからの再生事例には、必ずといっていいほど、家族の「関わり」がある。

だから、この手の事例を見ると苦しくなる。

深く関わるのが自分以外の誰かなら、どんな再生物語もフィクションとして観られる。

エンタメとして消費していける。

けれど自分が当事者となり、誰かの再生物語に登場することは、それを引き受ける覚悟がないと無理だ。

私は観客でいたい

私は登場人物になりたくない。

観客でいたい。結末を、少しだけ安全な場所から見届けたい。

結末を知らずに暮らしていけるほど、強くはないから。

薄情と言われそうだけど、それが本音だ。しかたない。

わたしが知っている、兄のこと

大学卒業後、一般企業に就職。約10年前、退職を機に実家に戻り、両親と同居。その後、ひきこもり状態に。極端な思想に傾倒しやすく、同調しない相手への攻撃性が高い。

※ 本記事は実際の体験をもとにしていますが、身元の特定を防ぐため、一部の情報を省略・変更しています

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環しのぶ
環しのぶ
ひきこもりの兄をもつ妹が書くエッセイを執筆。50代の子どもを80代の親が支える「8050問題」の片隅に、家族の問題で人知れず悩むきょうだいがいます。
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